人気ブログランキング | 話題のタグを見る

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ

僕に「○○」の話させたら長くなりますよ Advent Calendar 2016の16日目の記事になります。
このシリーズ、元ネタの都合上ひたすら長くなったり、内容に間違いとかあっても許されてる感じがあってとてもいいと思いました(言い訳)。

梅原大吾選手(以下ウメハラ選手)という格闘ゲームプレイヤーがいます。格闘ゲーム界隈では昔からの有名人でしたが、4年ほど前に出版された『勝ち続ける意志力』がゲーム界隈以外の著名人から注目されたり紹介されたことがきっかけになったのか、ここ最近は各種メディアで紹介される機会が増えたように感じます。

特に現在のウメハラ選手を紹介する際に欠かせない『背水の逆転劇』。これは2004年にアメリカで開催されたゲーム大会「Evolution(現在のEvo)」における「ストリートファイターIII 3rd strike(以下3rd)」部門のトーナメント内でのある試合のことを指します。
内容はウメハラ選手が地元アメリカの有名プレイヤー、ジャスティン・ウォン選手(以下ジャスティン選手)との試合で決めた劇的な逆転勝利で、これが撮影された動画はYoutubeで100万回以上再生されています。

背水の逆転劇 - YouTube

この動画はウメハラ選手がテレビで紹介されるときにだいたいセットで流されています。実際、3rdや格闘ゲーム自体に詳しくない人も「よくわからないけどなんか凄いことは分かる」という評価をしばしば聞きます。

ですがこの動画、テレビで紹介されるときは(尺の都合もあって)非常に簡素な解説が添えられるだけで、どれだけ凄いことなのかが全然語られていない印象がありました。そんなわけで今回のアドベントカレンダーをキッカケに、動画勢で3rd初心者プレイヤーである自分が頑張って「なにが凄いのか」を頑張って解説します。

ふしぶしで間違っていたり勘違いしてる部分や、今回の解説には不要と判断して除外している部分もありますがお許しを。

まずひとつ目の質問、スト2って知ってますか?やったことありますか?(元ネタリスペクト)

試合の解説をするためには、まず最低限の格ゲーの知識がないとちんぷんかんぷんになるわけですが、流石にそこまで解説すると長くなりすぎるので省略します……本当にすみません……。
ただ、前提で知っておいてもらいたい知識は本当に基礎の基礎知識ですので、「格ゲー?子どもの頃にスト2やったことあるよ!遊び方もだいたい覚えてる!」ぐらいで十分です。

基礎の基礎

- 相手の体力を0にしたら勝利(KO)。体力は「体力バー」として表示されている。
- 攻撃はボタン一つでだせる「通常技」の他に、特定のコマンド入力によって出せる「必殺技」がある
- 操作キャラクターはレバー(十字キー)で操作、上入力でジャンプ、下入力でしゃがむ
- 相手がいる方向と逆の向きにレバー(十字キー)を入力すると攻撃をガードすることができる
- 必殺技はガードしても、体力バーがわずかに減る(削られる)

以上です。

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00033474.png


ちなみに大前提ですが、画面左の白い道着を着たキャラクターがウメハラ選手の操る「ケン」で、右がジャスティン選手の操る「春麗」です。

二つ目、3rd独自のシステムはどれくらい理解されてますか?(元ネタry)

3rdはスト2からいくつかのシステムが追加されました。

(1) スーパーアーツ(SA)ゲージ/スーパーアーツ/EX必殺技

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00040297.png


画面下に表示されているゲージです。これは攻撃をしたりそれを当てたり(ガード含む)、逆に攻撃を受けてしまったりブロッキング(後述)することで蓄積されていきます。
そしてこのゲージを1本分まるごと消費することによって威力の大きなスーパーアーツ(以下、SA)という種類の必殺技を出したり、一定量を消費することで、通常よりも威力や性能の高い必殺技(EX必殺技)を出すことができます。

(2)ブロッキング

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00041609.png

ブロッキングすると「カァン!」と気持ちの良い効果音と画面エフェクトがかかるので判別しやすいですね。

このゲーム最大の特徴であり、この動画の最大のキモともいえるシステムです。

雑に説明すると、「ニュートラル(レバーがどこにも入力されていない)状態で相手の攻撃を受ける瞬間、相手の方向に向けてレバーを倒すと、その攻撃を『1度だけ』防ぐことができる」防御システムです。

ブロッキングはガードと違い、必殺技だろうとSAだろうと体力ゲージは削られません。それだけでなく、ブロッキングした相手の動きが一瞬止まります。ここからの反撃で、相手に手痛いダメージを与えることができます。実際に『背水の逆転劇』も、春麗のSAをブロッキングしての反撃による逆転劇になっていますね。

ちなみに3rdはスト2同様、ジャンプ中はガードすることはできませんがブロッキングをすることは可能です。

『逆転の背水劇』の解説:何をやっているのか

ということで上記のシステムを踏まえて、実際にこの動画では何が起きているのかを解説します。

(再掲)背水の逆転劇 - YouTube

動画ではジャスティン選手が操る春麗の体力バーの長さに対し、ウメハラ選手の操るケンの体力がほとんどない状態から始まっています。ウメハラ選手が猛攻を振るうものの、ケンの体力もじわじわと減っていき0:20では春麗の攻撃と相打ちになってしまい、ケンの体力はほぼ0となってしまいました。

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00043452.png

画質が荒いのでとても分かりづらいですが、ケンの体力バーは残り数ドット。必殺技によってはガードによる減少値だけでもKOしてしまう状態です(ガードもできない状態、は間違いかもしれない…)

そしてこの状態で春麗はSAゲージが1本分溜まっています。ジャスティン選手は決着をつけるべく春麗のSA『鳳翼扇』を発動しとどめを刺すつもりでしたが(0:26)、その攻撃は全てウメハラ選手によってブロッキングで捌かれてしまい、ケンの反撃によって逆にKOされてしまいました(0:32以降)。

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00050913.png

最後、ジャンプしてのブロッキングから強K>しゃがみ中K>中昇竜拳>(昇竜拳の1発目をキャンセルして)SA『疾風迅雷脚』という連続技で逆転勝利を決めました。

『逆転の背水劇』の解説:鳳翼扇のブロッキングについて

というわけでこの動画の一番の見所は、春麗のSA『鳳翼扇』をすべてブロッキングしているシーンで間違いないでしょう。

ところでこの記事の最初に書いたブロッキングの説明を思い出してください。ブロッキングは「一度だけ」の攻撃を防ぐシステムです。ところが該当のシーンを見るとケンは何回もブロッキングをしています。そう、鳳翼扇は最大17ヒットするSAなので、ウメハラは17回ブロッキング入力を行っています。

とはいえ鳳翼扇は1ヒット目のブロッキングに成功すると、2〜17ヒット目までのブロッキングはそこまで難易度が高いわけではなかったりします(簡単と言っているわけではない)。実際にトッププレイヤーの試合の中で鳳翼扇を全てブロッキングしたり途中までブロッキングして反撃に転じるシーン、決して0ではありません。ただ、ゲームの見栄えとしては最高の部類の一つなのは間違いないでしょう。

参考:電撃 - ヌキが目隠しで背水の逆転劇! ウメハラ伝説を検証する“ふ~ど&ゴローのゲーム人間学園”の結果は?

それを踏まえると、(メディア関連では)あまり注目されていない「鳳翼扇の1ヒット目をブロッキング」が、実は逆転劇において重要な要素だったりします。

『逆転の背水劇』の解説:ブロッキングの詳細と初弾をブロッキングするまでのやりとり

ブロッキングの入力は「ニュートラル状態から相手に向けてレバーを倒す」でしたが、正しく書くと「レバーを倒してから6〜10/60秒(0.1〜0.17秒、レバーを再度ニュートラルに戻すことで0.17秒まで延びる)の間、相手の攻撃が当たるとブロッキングとして防いでくれる」です。ブロッキングを受け付けてくれる時間はかなり短いです。

さらにブロッキングには「封印時間」が存在します。「ブロッキングの受付時間(0.1〜0.17秒)が終わってから23/60(0.38)秒、ブロッキング入力は受け付けない」という制約が存在します。そのため、ブロッキングは適切に「ここで攻撃が当たる!攻撃を当ててくる!」というタイミングで入力しないといけません。

ということで、動画の0:21〜0:26付近を見てみましょう。春麗はケンから離れた距離で、攻撃を空振りしたり、小刻みにしゃがんだりという行動をとっています。これはジャスティン選手がブロッキングされないように鳳翼扇の発動タイミングを読まれないようにするために行っています。

上級プレイヤーともなれば「どんな技で攻撃されるか」が分かって、そのタイミングまで把握できると簡単に攻撃をブロッキングしてしまいます。
さらにSAは威力が強力な代わりに、コマンドも通常の必殺技より複雑です。鳳翼扇のコマンドは、自身が右向きの時は「下、右下、右、下、右下、右+キックボタンのいずれか」です。このコマンドの都合上、途中で春麗がしゃがんでしまうため(場合によっては素早く二度屈伸するような感じになる)、相手に鳳翼扇を発動するタイミングがモロバレになってしまいます。そのため、ジャスティン選手はわざとすばやく屈伸させたり攻撃を空振ってその間に鳳翼扇を入力しているようなフェイントをかけて、ウメハラ選手に誤ったタイミングでブロッキング入力をさせるようにしています。
ここで改めて書くまでもないですが、ケンは体力がもうないので、鳳翼扇をガードしてしまうと、その時点で体力が削られてKO負けになってしまいます(とはいえ、ここは断言できるほど自信がない)。

と、動画を見た上でここまで読んだ人は一つの疑問があるかもしれません。それは、鳳翼扇が発動するときの仰々しい演出。「この演出見てから入力すれば、ブロッキングできるじゃん」ということを。

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00053316.png

わざわざズームアップまでしてくれるSA発動演出。ちなみにこの動画でケンがとどめを刺すときに使った技もSAなので、同様のズームアップ演出が入っています。

結論からいうと、この演出中(暗転中とも呼ばれています)は各種入力の受付は除外されます。そのためこの演出中にブロッキング入力をすることはできません。

とはいえ、暗転終了から実際に攻撃がヒットするまでは3/60(0.05秒)の猶予があります。そのタイミングを見極めてブロッキングを入力すればいいのですが、非常にシビアです。では実際、ウメハラ選手はどのタイミングで入力しているのでしょうか?

0:26で鳳翼扇が発動する直前のケンをよく見てみましょう。

僕に「背水の逆転劇」の話させたら長くなりますよ_d0252816_00055972.png


直前のコマは荒すぎたので、暗転終了直前(まだ入力不可)のキャプになりますが、ケンは暗転直前に棒立ち状態から前進しています。つまり、ウメハラ選手はジャスティン選手の行動を完全に読んで、このタイミングでブロッキング入力をしていることがわかります。直前で春麗がしゃがんだ瞬間に動いているので、ここで鳳翼扇を入力したと判断して動いているのだと思います。

ということで長いですが、背水の逆転劇のブロッキング直前だけでも、こんな読み合いが行われていたわけです。

『逆転の背水劇』の解説:反撃の選択

鳳翼扇のブロッキングの解説は終わりました。途中にも書きましたが、ウメハラ選手は最後のブロッキングをわざわざジャンプブロッキングという、そのままブロッキングするよりも失敗するリスクが高い行動を選択し、

ジャンプ大キック > しゃがみ中キック > 中昇竜拳 > 疾風迅雷脚(SA)

という「連続技(説明は省略)」で逆転勝利を手にしました。ちょっと自信がないですが、おそらくこれは鳳翼扇を全てブロッキングした際のケンができる最大威力の反撃パターンです。最後の一撃を地上でブロッキングしていた場合、そこからジャンプしても春麗のガードが間に合ってしまうので、この時はしゃがみ中キック>〜しか当てられなかったでしょう。

そしてこの連続技で春麗をギリギリのところでKOしています。この反撃でKOできるとウメハラ選手が確信していたのかどうかわかりませんが、入力に失敗するリスクもあるし、それだけでKOできないかもしれないという判断リスクもある選択肢を、ブロッキングの数秒間に判断して実行し、成功させた点は素晴らしいと思います。

『逆転の背水劇』の解説:ジャスティン選手の「甘さ」

と、ここまで書いた「逆転の背水劇」ですが、「そもそも鳳翼扇でとどめを刺そうとしたジャスティン選手が甘い」という評価をしばしば目にすることがあります。

実際に今回解説書きながら、自分でもそう思うほど鳳翼扇は「全てブロッキングされると、その反撃でそのままKOされるリスクがある」技だったと言えます。
この他の春麗の攻撃の選択肢は反撃こそあっても、一回のミスでそのままKOまで持っていかれるようなリスクのあるものではありませんでした。
そう考えると、ジャスティン選手が鳳翼扇で決着をつけようとしたことは確かに「選択肢のミス」とも言える行動であったし、逆にそのミスに対して一番のリスクをキチンと与えて勝利したウメハラ選手の判断と行動を成功に導いた集中力は評価されるべきものと思います。

結論:なにがすごかったのか

Evolutionはアメリカで開催されている大会でもあり、現地の観戦者のほとんどは米国人、さらに対戦相手はアメリカの有名プレイヤーであったジャスティン選手でした。ウメハラ選手も当時から海外でも注目されていたゲーマーであり、後述しますがこの年の1年前の同大会でハイレベルな試合を見せていたこともあり、注目度は相当なものだったと思います(あの動画で聞こえる最後の歓声からしても)。

そんな中でウメハラ選手は絶体絶命の状態で「一度のミスが許されない状況で、相手の出したしまった隙に対して、もっとも最善な手をまったくのミスなくこなして勝利を決める」ことを決めた、そのテクニック以上の精神力の強さが『背水の逆転劇』の評価ポイントなのかなと私は思っています。

おわりに

以上で長くなりましたが、逆転の背水劇の解説でした。

ちなみによく勘違いされているのですが、この背水の逆転劇の試合は「決勝戦」ではありません。
このあとウメハラ選手は決勝戦で同じく日本から招待されたKO選手と対戦し敗北、準優勝で終わります。

Evo 2004: KO (Yun) vs. Daigo Umehara (Ken) - SFIII Grand Final - YouTube

ちなみにこのKO選手、3rd界ではいまなお最強プレイヤーとして名前が必ず上がるほどの強豪プレイヤーで、さら1年前(2003年)のEvolutionでもウメハラ選手はKO選手に敗北しています。

Street Fighter III 3rd Strike - EVO2k3 K.O vs ウメハラ part1 - YouTube

そしてこの翌年(2005年)、当時日本国内で最大の格闘ゲーム大会だった『闘劇05』にて、KO選手にリベンジを果たして優勝するという劇的なドラマがあったりするわけですがそのあたりは割愛します。

STREET FIGHTER 3 3rd Strike 闘劇'05決勝 - YouTube

追伸

ここまで長々と解説してきた『背水の逆転劇』の舞台となった「ストリートファイターIII 3rd strike」の大規模大会「クーペレーションカップカップ」が1月7日と8日に開催されます。

第15回クーペレーションカップ2017 - The 15th Cooperation Cup 2017

たぶんウメハラ選手は出ませんが、ちょっと話題にだしたKO選手は出るみたいですね。配信もやるそうです。

by yamacraft | 2016-12-16 00:08 | いろいろ